『思量と願い 精神医学の風景』 神庭重信 

日本を代表する精神科医・神庭重信教授の思索の幅広さと奥深さを実感する本

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思量と願い 精神医学の風景 神庭重信 九州大学出版会
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 精神神経学会の理事長として、名実共に日本を代表する精神科医であり、この3月に九州大学を定年退官される神庭重信教授の現役最後となる本である。
神庭先生とは、共にPsychiatry and Clinical Neurosciences誌のCo-Editor-in-Chiefをさせていただいていることに加え、さまざまな委員会、学会等でご一緒する機会が多く、先生が生物学から精神病理学、精神療法、多文化間精神医学など、本当に幅広い領域に通暁されていることは存じ上げていたが、本書にはさらなる新たな発見が数多くあった。
 どんな文章でも決して手を抜かず、とことん推敲される神庭先生だけあって、本書も隅から隅まで洗練された文書である。うつ病に関してのお考えについては、「うつ病の論理と臨床」(弘文堂 2014年)の方がより深く体系的に知ることができるであろうが、本書の第一部だけでも、神庭先生の思索の幅広さと奥深さを実感することができよう。
 第二部では、日本の精神医学を支えようとする神庭先生の想いが伝わり、第三部では、神庭先生の温かなお人柄が伝わってくる。
 しかし、筆者にとって最も印象に残ったのは、なによりも第四部の教室通信を出典とする章である。ここでは、震災後の福島での心のケア活動の話や、海外出張中のさまざまなこぼれ話など、普段の神庭先生からは窺い知れない一面を垣間見ることができる。
 そして、医局長から「またまた海外ですか」と不満そうに言われた時、「今度こそはっきりと言っておく。日本チームが参加するというのに、団長が行かないで、お国に恥をかかせるわけにはいかないのだ」と強く言い返したのかと思いきや、実際に神庭先生の口から出た言葉といったら…。何ともお茶目な神庭先生のお姿には、思わず吹き出してしまいそうになった。
 神庭先生のことを直接ご存じない方にはもちろん、よく知っているつもりの方にもぜひお勧めしたい本である。 

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