『ネット炎上の研究』

エビデンスに基づき、炎上現象を解決すべき社会の課題と捉えた本

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 ネット炎上の研究  田中辰雄・山口真一著 勁草書房
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 インターネットが広く使われるようになってからまだたかだか20年程度である。その上に構築されたソーシャルネットワークサービスであるTwitterやFacebookが広く使われるようになってから10年位、LINEに至っては5年もたっていない。100年以上にわたる精神医学の歴史に比べればわずかな期間かも知れないが、これらが登場する以前に比べて、精神世界が大きく変わってしまったような気がしてならない。そのような時代にあって、ネット上で起きる人間関係の問題については、Cyberpsychology, Behavior, and Social Networkingという1998年に創刊された専門誌があるが、日本ではインターネット依存、ゲーム依存についての研究が進んでいる他は、あまり研究が盛んとは言えないように思う。
 そんな状況の中で、2人の経済学者により執筆された本書は、ソーシャルメディアにおける「炎上」と呼ばれる現象について分析、タイプ分けし、炎上参加者の調査などの実証的なデータを元に議論している点で貴重なものである。
 本書の特徴は、炎上現象について、ごく一握りのユーザーの書き込みによって生じており、情報発信力の濫用とも呼ぶべきものであって、情報発信の萎縮という好ましくない反応を引き起こしていることから、社会として解決すべき課題である、と明確に位置づけている点にある。これまでの類書では、炎上はインターネットというメディアの特性であり、情報発信者が注意するしかないと捉えられていたように思う。本書においては、新たな技術の出現に伴う、過渡的な現象であり、いずれはコントロールされていくものだと位置づけられているのである。そしてその具体的な対策として、サロン型SNSや炎上リテラシー教育の必要性などを唱えている。
 本書では多くの実例も挙げられているが、中には、人違いによる炎上事件で、警察や検察がインターネットの知識が不充分であったために、対処が遅れた事例もあった。15年以上前、ネットでの辛い体験を訴える方を診療した際、当方の理解が十分でなく、助けになれなかったことを思い出し、忸怩たる思いであった。
 炎上現象を含め、サイバー社会における精神医学的問題については、今後掘り下げて検討すべき点がまだまだ多く残っているように感じた。

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