『2045年問題 コンピューターが人類を超える日』 『人工知能 人類最悪にして最後の発明』

人類の未来と人工知能について考える

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 2045年問題 コンピューターが人類を超える日 松田卓也著 廣済堂新書
 人工知能 人類最悪にして最後の発明 ジェイムズ・バラット著、水谷淳訳 ダイヤモンド社
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 筆者は以前、「岐路に立つ精神医学」で、精神医学が今後10~20年間の近未来に進むべき方向について述べた。しかし、より遠い未来、たとえば50年後、100年後の精神医学についての言説を見かけたことがない。
 筒井康隆氏の「七瀬ふたたび」で、予知能力を持つ登場人物が、なぜかある点から先の未来が予知できなくなってしまい、結局その時点でその人物は…というシーンがあった。我々が今、未来を予測できなくなってしまっているとしたら、それは何故なのだろうか。
 未来予測に関わる鍵概念が、「シンギュラリティー(特異点)」である。
 シンギュラリティー(特異点)という言葉は元々数学用語であり、発散して解が得られない点を示す。一般相対性理論では、時空上のそのような点がブラックホールとされ、特異点の先がどうなっているのかは誰にも予測することができない。
 人工知能が人間の知能を超えて加速度的に進歩し、人間の理解できないところまで進むと、そこから先に起きることはもはや現在の人類には予測不可能である。その人工知能が人間を超える点が、シンギュラリティーと呼ばれるようになった。その到来が2045年頃との予測があることから、シンギュラリティーの議論は2045年問題と呼ばれることもある。2045年といえば、わずか30年後。現代の大学生が50歳位になる頃である。
 人工知能とシンギュラリティーに関して述べたこれら2つの書物は、対照的である。
 ジャーナリストであるバラット氏は、認知科学+コンピューター科学、あるいは計算論的神経科学のどちらかの経路で、必ず近い将来、人類がその内容を理解できないような人工知能ができるであろうと予測しつつ、感情も倫理も持たない人工知能は人類を滅ぼす危険があると警告する。こうした危険を避けるため、人工知能に人類に対するフレンドリーさをプログラムするための研究が進められていることについても述べられてはいるものの、基本的には、人工知能は作るべきでないという結論ありきの議論に思えた。最後の章では、ハッカーが人工知能を悪用する危険について恐怖を煽る書き方をしているが、ハッカーの問題は人工知能によるシンギュラリティーとは次元の異なる問題であり、読者を怖がらせるために論理まで曲げてしまっている印象であった。こうした議論の仕方が、シンギュラリティーの議論に宗教的色彩を与えてしまっているように思えてならない。
 一方の松田氏の本も、このままでは人類は滅亡するという認識においてはバラット氏と変わらないが、それを乗り越えるためには人工知能が必要だという、全く逆の結論となっている。バラット氏の一見重厚な本と異なり、非常に簡潔で平易な本ではあるが、こちらの方がはるかに説得力のある議論と感じられた。
 人工知能の出現による未来の予測としては、人類が人工知能に支配されるという、バラット氏の予測するような未来の他に、人類が意識をコンピューターにアップロードし肉体を失って生き続ける、人類は存続しコンピューターが人間の知能を増強する、あるいは何も起こらない、といったものがあるという。30年後に、本当に映画「マトリックス」のような世界になってしまうとすると大変なことであるが、大パニックが予想された2000年問題の折、結局ほとんど何も起きなかったことを思い出すと、それほど大きな問題は起こらない可能性もあるように思える。しかし松田氏は、人類が今のように生態系から逸脱し、化石燃料を使い続けたら、食料不足、燃料不足により争いが起き、文明は崩壊する以外にない、これを乗り越えるには人工知能が必要である、という。そして、今後人工知能が人類の運命を左右する存在となり、「頭脳」を制する者が世界を制するため、これからは頭脳の謎の解明が重要であると指摘する。
 そもそも、シンギュラリティー以降を予測することは、その定義上できない訳であるが、改めて考えてみると、実際には、人類は既に何度もシンギュラリティーを経験しているのではないだろうか? 文字、印刷、時計、銃、コンピューター、インターネットなど、新しい発明は世界を大きく変えてきたが、こうした変化は、人類が予想しえなかったものだったはずである。我々は既に、100年前から見れば、シンギュラリティー以降の未来に生きているのだ。
 松田氏の予測によれば、将来は予算の配分も、国民の幸福を最大化するように人工知能が計算するようになるという。文部科学省が2016年度の概算要求で人工知能研究に100億円を盛り込んだと報じられているが、2045年、予算配分を担当する人口知能はいったいどんなプロジェクトに予算を配分するのであろうか。

 

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